盛岡地方裁判所 昭和31年(行モ)3号 決定 1956年11月01日
原告 菅原惟一郎
被告 室根村選挙管理委員会
主文
本件申立を棄却する。
申立費用は、申立人の負担とする。
理由
申立代理人は「盛岡地方裁判所昭和三一年(行)第二五号署名の効力に関する決定取消請求の本案訴訟の判決確定に至るまで、相手方室根村選挙管理委員会が、昭和三一年一〇月二六日(リ)第一四号を以て告示した、投票期日昭和三一年一一月一八日の室根村長解職の賛否投票は之を停止する」との裁判を求め、その理由とするところの要旨は「申立人は室根村長であるところ、申立外今川満は申立人を解職する請求代表者となり昭和三一年七月一七日相手方に解職請求者名簿を提出した。相手方は審査期間を経て右署名簿を七日間縦覧に供したので、申立人は同年八月一六日右署名の全部無効を主張して相手方に異議の申立をしたが、同年九月一七日右異議申立は棄却された。しかし右棄却決定は、次の理由により違法であり取消さるべきものである。
即ち解職請求代表者今川満及びその受任者らは、申立人の村政に関し事実無根の誹謗を行い、詐言を以て署名を求めたものであり、署名は全部無効である。仮にそうでないとしても、同代表者が相手方に届出た上署名収集を委任した菅原優輝は、同村議会議員であり、同小松隆は、同村農業委員会委員で、いずれも地方公共団体の公務員として署名収集の実際活動をする資格のないものであるから、同人らの収集した署名八五は無効である。請求代表者今川満の収集した全署名一、九七〇から右の無効署名八五を差引くと有効署名数は一、八八五となり、解職請求法定数である有権者数の三分の一、一、八八七に達しない。しかるに、相手方はこれらの署名を有効なりとし、昭和三一年一〇月二六日告示(リ)第一四号を以て、昭和三一年一一月一八日室根村長解職賛否投票を行う旨告示した。もし右投票の結果、申立人が解職となり、新選挙の結果申立人以外の者が当選し、しかも当庁昭和三一年(行)第二五号署名の効力に関する決定取消請求事件において原告である申立人が勝訴することとなれば、一つの村に二人の村長が生れるという奇現象が現われ、地方自治法には右に関する適切な規定を欠くため、収拾することのできない混乱を来し公益上重大な事態を発生し、結局償うことのできない損害を生ずる虞があるので、本裁判を求める」というにある。
相手方が申立人の異議申立を棄却したことの疏明があり、之に対し申立人が当庁に取消訴訟を提起していることは当裁判所に顕著である。しかしながら、本件において投票の執行停止をしなければ、申立人に償うことのできない損害を生ずるとは認められないし、又仮に生ずる虞ありとしても、今ここで執行を停止しなくとも、これを避ける手段は今後に求めうるから、緊急の必要性ありとも認められない。よつて本申立を棄却することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 村上武 瀬戸正二 梅村義治)